日本の医薬品製造販売承認では、品目の資料の審査と並行して、製造所が製造管理・品質管理の基準に適合しているかどうかを確認する「GMP適合性調査」が行われます。海外の製造所も例外ではなく、無菌製剤の製造所では、日本のGMP省令に加えて、国際的に参照されるPIC/S GMPガイドの付属書1(無菌医薬品の製造)に沿った管理が確認の対象になります。
この記事では、GMP適合性調査の種類と流れ、日本のGMP省令の無菌医薬品に関する規定、日本が加盟しているPIC/Sの付属書1の要点を、一次資料に基づいて整理します。本記事は制度の一般的な解説であり、特定の製造所の調査結果や適合状況を示すものではありません。
GMP適合性調査とは
薬機法第14条第2項第4号と第6項は、政令で定める医薬品について、製造所における製造管理・品質管理の方法が厚生労働省令で定める基準に適合していると認められないときは承認を与えず、承認を受けようとするとき、および承認の取得後、政令で定める期間を経過するごとに、書面または実地の調査を受けることを求めています。施行令第21条は、この期間を5年と定めています。
PMDAの公開資料によると、外国製造業者に対するGMP適合性調査とは、PMDAが、製造所における製造管理・品質管理の方法について、日本のGMP省令(「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」、平成16年厚生労働省令第179号)に適合しているかどうかを調査することであり、GMPに適合していることは製造販売承認の要件であるとされています。承認の要件と手続の関係は、外国製造業者認定と外国特例承認の記事で整理しています。
調査の種類
PMDAは、GMP適合性調査を次のように分類しています。
- 申請に基づく調査:新規の製造販売承認申請時、または承認事項の一部変更に係る承認申請時に行う調査。承認後変更管理実施計画書(PACMP)の確認に伴う適合性確認(2021年8月から)も含まれます
- 定期調査:製造販売承認の取得後5年を経過するごとに行う調査
- 区分適合性調査:製造工程の区分ごとに行う調査で、製造業者に対し、区分ごとに3年間の有効期間を持つ基準確認証が交付されます。基準確認証の有効期間中は、その区分に属する品目の定期調査を省略できます。この制度は2021年8月に、国際整合の観点から導入されました
- 申請に基づかない調査:通常調査(PMDAがリスク評価に基づいて計画)と特別調査
新規申請や一部変更申請の場合、調査の対象となるのは、申請書に記載された製造所のうち、審査でGMP適合性調査が必要と判断された製造所と外部試験検査機関です。定期調査の場合は、承認書に記載のあるすべての製造所(製剤、原薬、原薬中間体の製造所、包装・表示・保管施設)が対象で、有効な基準確認証を持つ製造所などは調査が省略されます。
外国の製造所に対する調査の流れ
外国製造業者のGMP適合性調査の申請は、製造販売承認を申請する製造販売業者、外国特例承認取得者、または外国特例承認を取得しようとする者がPMDAに対して行います。外国特例承認を取得しようとする者が申請する場合は、製造販売業者の選任が必要です。
調査は実地調査(PMDAが現地で直接調査する)が基本ですが、製品のリスク、当該国のGMP基準とその運用、提出された調査資料によるGMP遵守状況などをPMDAが判断し、書面による調査が行われることもあります。調査の結果は、PMDAが厚生労働省と製造販売業許可権者の都道府県へ「適合性調査結果通知書」で報告します。申請した製造販売業者等には通知書の写しが、実地調査を受けた外国製造業者には「調査結果報告書」の写しが発行されます。書面調査の場合は、調査結果報告書の写しは作成されません。
申請時に求められる資料
PMDAの公開資料によると、申請書と添付資料は、外国製造所に係る申請であっても、原則として日本語で作成する必要があります。添付資料に限り、原文が外国語の資料が大部にわたる場合は、主たる概要のみを日本語で作成することで差し支えないとされています。
新規申請や一部変更申請の場合の添付資料には、次のものが含まれます。
- 申請日から過去2年間に、他の調査権者が実施したGMP調査に係る適合性調査結果通知書または調査結果報告書の写し(調査が実施されている場合に限る)
- 相互承認協定(MRA)を締結している国にある製造所は、当該MRAに基づく相手国の適合性証明書またはGMP調査報告書の写し。MOU等を交換している国の製造所は、そのMOU等に基づく証明書または調査報告書の写し。これら以外の国の製造所は、WHO証明書、その国の当局による適合性証明書など
- 申請品目の製造販売承認申請書等の写し
定期調査では、これらに加えて、承認書の写し、過去5年間の一部変更承認書と軽微な変更届書の写し、過去5年間の回収の有無(有の場合はその概要)、宣誓書などが求められます。区分適合性調査では、製造品目のリストと査察履歴、製造所の製品に起因する過去3年間の回収・GMP不適合・ワーニングレター・インポートアラート等の有無、宣誓書、サイトマスターファイルまたは同等の資料が求められます。提出資料の詳細は、PMDAが事務連絡として公表しており、最新のものを確認する必要があります。
GMP省令の無菌医薬品に関する規定
GMP省令は、通則(第二章第一節)で医薬品全般の製造管理・品質管理を定め、第三節で無菌医薬品の特則を定めています。通則には、次のような条文があります。
- 第3条の3:医薬品品質システム。品質方針と品質目標を文書で定め、必要な資源を配分し、定期的にシステムを照査する
- 第3条の4:品質リスクマネジメント。これを活用して医薬品品質システムを構築し、製造管理・品質管理を行う
- 第8条の2:交叉汚染の防止、第9条:構造設備
- 第11条の5:外部委託業者の管理、第13条:バリデーション、第14条:変更の管理、第15条:逸脱の管理
第3条の3第2号には、外国製造業者の場合の「製造管理者」について、法第13条の3第1項の認定を受けた製造所の責任者、または外国製造業者があらかじめ指定した者とする旨の定めがあります。
第三節 無菌医薬品の製造管理及び品質管理
第23条は、施行規則第25条第1項第3号の区分の製造業者と、施行規則第35条第1項第3号の区分の外国製造業者の製造所の構造設備について、通則の構造設備の規定に加えて、次の趣旨の基準を定めています。
- 作業室または作業管理区域は、製品の種類、剤形、製造工程に応じて、清浄の程度を維持管理できる構造と設備を有すること
- 無菌操作を行う区域は、フィルターにより処理された清浄な空気を供し、適切な差圧管理を行うために必要な構造設備を有すること
- 注射剤を製造する場合、無菌性保証に影響を及ぼす接液部の配管等は、洗浄が容易で、かつ滅菌が可能な設備であること
- 調製作業、充塡作業などを行う作業室または作業管理区域は、非無菌医薬品の作業所と区別され、調製作業と充塡・閉塞作業を行う作業室は専用であること
第24条は、製造管理の面で、作業区域の清浄の程度等の管理の程度を設定して管理すること、原料・資材・製品の微生物等の管理項目を設定して管理すること、微生物等による汚染を防止する措置をとること、無菌性を保証するために重要な工程の管理値を定めて管理すること、製造用水の管理値を定めて管理すること、職員の衛生管理を行うことなどを定めています。第25条は、無菌医薬品の製造に従事する職員への衛生管理、微生物学などの教育訓練を求めています。
日本のPIC/S加盟とGMPガイド付属書1
PIC/S(医薬品査察協定・医薬品査察協同スキーム)は、各国の当局が加盟するGMP査察の国際的な枠組みです。PIC/Sの加盟当局一覧によると、日本は2014年7月に加盟しており、厚生労働省とPMDAは一つの加盟当局として数えられ、各都道府県は厚生労働省に代表されます。
PIC/S GMPガイドの付属書1「無菌医薬品の製造」は、2022年に全面的に改訂され、改訂された付属書1は2023年8月25日に発効しました。PIC/Sは、改訂の重要な変更点を解説する文書(PI 058-1)も公表しています。現行のPIC/S GMPガイドはPE 009-18で、付属書は同ガイドの付属書編に収録されています。
付属書1の要点
付属書1の構成は、範囲、原則、医薬品品質システム、施設、設備、ユーティリティ、職員、製造と特定の技術、環境・工程モニタリング、品質管理(QC)、用語集です。主な要点は次のとおりです。
- 汚染管理戦略(CCS):施設全体にCCSを実施し、すべての重要管理点を定め、設計・手順・技術・組織の各管理とモニタリングの有効性を評価すること(2.3)。CCSの検討要素として、設備と工程の設計、施設・設備、職員、ユーティリティ、原料管理、容器・施栓系、供給者の承認、外部委託の管理、工程バリデーション、滅菌工程のバリデーション、定期的な保守、洗浄と消毒、モニタリング、傾向分析・CAPAなどが挙げられています(2.5)
- 最終製品試験に依存しない考え方:無菌性その他の品質について、最終の工程や最終製品試験のみに依拠してはならない(2.7)。モニタリングや試験だけでは無菌性の保証にならない(2.2)
- クリーンルームのグレード:無菌医薬品の製造にはグレードA、B、C、Dの四つのクリーンルーム・区域があり、グレードAは充塡ゾーンなどの重要区域、グレードBは無菌調製・充塡のグレードAの背景区域とされています(4.4)
- バリア技術:RABS(アクセス制限バリアシステム)やアイソレーターは、重要区域での人の直接介入に伴う微生物汚染を最小限にするうえで有益であり、その使用をCCSの中で検討すること(4.3)
- クリーンルームの分類:0.5 μm以上と5 μm以上の総粒子数を、非稼働時と稼働時の両方で測定する(4.27、表1)。隣接する異なるグレードの部屋の差圧は、目安として最低10 Pa(4.14)
- 環境・工程モニタリング:グレードAは重要工程の全期間にわたって粒子を連続的にモニタリングし、サンプリング流量は1分当たり28リットル以上(9.16、9.17)。微生物モニタリング、職員のモニタリング、アラートレベルと措置基準の設定、傾向分析を含む
- 無菌操作のシミュレーション(APS、培地充填):初期バリデーションで、無菌操作が行われるすべての作業シフトを網羅する少なくとも3回の連続した良好な試験を実施し、通常は工程・充填ライン・シフトごとに年2回(約6か月ごと)繰り返す。各作業者は年1回以上、良好なAPSに参加する(9.38)。充填する単位数は通常、最低5000〜10000単位(9.40)。目標は菌の増殖がゼロであり、汚染された単位が一つでもあればAPSは不適合で、原因調査、是正措置、通常最低3回の連続した良好な再試験が必要です(9.46)
括弧内の数字は、PE 009-18の付属書1の項目番号です。付属書1は、数値や頻度が示されている箇所を、歴史的な規制上の経験に基づく最低限の要件と位置づけています。
日本のGMP省令とPIC/S付属書1の対応する主題
両者は同じ文書ではなく、条文の構成も詳細さも異なります。次の表は、主題ごとにどちらに規定があるかを整理したものであり、要求水準が同一であることを示すものではありません。
| 主題 | 日本のGMP省令 | PIC/S付属書1(PE 009-18) |
|---|---|---|
| 品質システムとリスク管理 | 第3条の3、第3条の4 | 第3項(PQS)、2.2 |
| 汚染管理の考え方 | 第24条(汚染を防止する措置、無菌性保証に重要な工程の管理) | 2.3〜2.7(CCS) |
| 施設の清浄度 | 第23条(清浄の程度の維持管理、差圧管理) | 4.4〜4.31(グレードA〜D、表1、表2) |
| 環境モニタリング | 第24条(作業区域の管理) | 第9項 |
| 無菌操作のバリデーション | 第13条(バリデーション) | 9.32〜9.47(APS) |
| 外部委託・供給者管理 | 第11条の4、第11条の5 | 2.5(供給者の承認、外部委託の管理) |
| 職員の教育訓練 | 第25条 | 第7項 |
日本のGMP適合性調査の根拠は、PMDAの説明にあるとおり日本のGMP省令です。付属書1は、PIC/S加盟当局が共通して参照する国際的な指針であり、無菌製剤の製造管理を整理するうえで、省令の各条が何を求めているかを具体的に考える助けになります。
外国の無菌製剤の製造所が整理しておく項目
- 製造所のサイトマスターファイル、または同等の資料(区分適合性調査で提出が求められています)
- 汚染管理戦略の文書と、クリーンルームのグレード、差圧、気流、環境モニタリングの記録
- 無菌操作のシミュレーション(培地充填)の計画、結果、不適合時の調査記録
- 滅菌工程、無菌ろ過、容器・施栓系のバリデーション記録
- 製造用水、ユーティリティの管理記録
- 変更管理、逸脱管理、CAPAの記録と、製品品質の照査(第11条の3)
- 過去2年間に他の当局が行ったGMP調査の結果(通知書、報告書、適合性証明書、WHO証明書など)
- 過去3年間の回収、GMP不適合、ワーニングレター、インポートアラート等の有無(区分適合性調査の場合)
- 日本語で説明できる体制:申請書と添付資料は原則として日本語で作成する必要があります
注射剤の品質規格と試験法の対応は、注射剤の品質規格:日本薬局方・EP・USPの記事で整理しています。
よくあるご質問
GMP適合性調査は何年ごとに受けますか。
薬機法第14条第6項と施行令第21条により、承認の取得後は5年を経過するごとに調査を受けます。製造工程の区分ごとの区分適合性調査で基準確認証(有効期間3年)が交付されている場合は、その区分に属する品目の定期調査を省略できるとPMDAは説明しています。ただし、新医薬品の初回の定期調査は省略できません。
調査は必ず現地で行われますか。
実地調査が基本ですが、製品のリスク、当該国のGMP基準とその運用、提出された資料によるGMP遵守状況などをPMDAが判断し、書面による調査が行われることもあります。
PIC/Sの付属書1に適合していれば、日本のGMP適合性調査は不要ですか。
不要にはなりません。PMDAの説明では、調査は日本のGMP省令に適合しているかどうかを調べるものです。他の当局の調査結果や証明書は、申請時の添付資料として提出が求められます。付属書1は、PIC/Sの共通の指針であり、日本のGMP省令に代わるものではありません。
申請書類は英語で提出できますか。
PMDAの説明では、外国製造所に係る申請であっても、申請書と添付資料は原則として日本語で作成する必要があります。添付資料に限り、原文が外国語で大部にわたる場合は、主たる概要のみを日本語で作成することで差し支えないとされています。
無菌製剤の製造所に対する調査では、省令の条文と、国際的な指針の考え方の両方が参照されます。汚染管理の考え方を文書で示し、記録で裏づけられる状態にしておくことが、手続全体の土台になります。
参考資料
- PMDA、医薬品及び医薬部外品外国製造業者に対するGMP適合性調査について(医薬品等外国製造業者向け説明)(2023年9月26日)。リンク
- PMDA、GMP/QMS/GCTP適合性調査業務。リンク
- 医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(平成16年厚生労働省令第179号)第3条の3、第3条の4、第11条の3から第11条の5、第13条、第23条から第25条。e-Gov法令検索(2026年11月3日確認)。リンク
- 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律 第14条、第14条の2の3。e-Gov法令検索(2026年11月3日確認)。リンク
- 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行令 第21条。e-Gov法令検索(2026年11月3日確認)。リンク
- PIC/S, Members(日本の加盟:2014年7月)。リンク
- PIC/S, Publications: PIC/S GMP Guide (PE 009-18) Annexes, Annex 1 Manufacture of Sterile Medicinal Products. リンク
- PIC/S, News: PI 058-1 Interpretation of the most important changes in the Annex 1 on the Manufacture of Sterile Products (2022). リンク