注射剤の品質規格:日本薬局方・EP・USPの比較と承認申請での扱い

注射剤は、体内に直接投与される無菌の製剤であるため、日本薬局方をはじめとする各国の薬局方が、無菌性、エンドトキシン、不溶性異物・微粒子、容器などについて試験法と基準を定めています。海外の製造所が日本の承認申請に関わる場合、自国の薬局方で運用している規格が、日本薬局方(JP)の記載とどこまで共通で、どこが異なるのかを、あらかじめ整理しておく必要があります。

この記事では、第十九改正日本薬局方の製剤総則「注射剤」と一般試験法の記載を一次資料として確認し、欧州薬局方(EP)、米国薬局方(USP)との対応関係と、ICH Q4Bによる調和の状況、承認申請資料での規格の扱いを整理します。

薬局方の本文は改正や追補で更新されます。本記事は2026年11月3日時点で厚生労働省が公開している第十九改正日本薬局方(令和8年4月10日厚生労働省告示第193号)に基づいており、実際の申請では、その時点で有効な版の本文を必ず確認してください。

日本薬局方における注射剤の位置づけ

日本薬局方は、薬機法第41条に基づき、医薬品の性状と品質の適正を図るため、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定めた医薬品の規格基準書です。構成は、通則、生薬総則、製剤総則、一般試験法、医薬品各条からなります。

注射剤に関する要求は、主に二か所に書かれています。一つは製剤総則の「製剤各条」にある注射剤の項で、注射剤が備えるべき性質と、適合すべき試験を列挙しています。もう一つは一般試験法で、製剤総則から参照される個々の試験の手順と判定基準を定めています。

製剤総則「注射剤」が求めるもの

製剤総則は、注射剤を「皮下、筋肉内又は血管などの体内組織・器官に直接投与する、通例、溶液、懸濁液若しくは乳濁液、又は用時溶解若しくは用時懸濁して用いる固形の無菌製剤」と定義し、輸液剤、埋め込み注射剤、持続性注射剤およびリポソーム注射剤を含むとしています。

製法については、通例として二つの方法が示されています。一つは、有効成分を溶剤に溶解、懸濁または乳化して容器に充塡して密封し、滅菌する方法です。もう一つは、無菌ろ過するか、無菌的に調製して容器に充塡して密封する方法です。後者の場合は、微生物による汚染に十分に注意し、調製から滅菌に至る操作を、組成や貯法を考慮してできるだけ速やかに行うとされています。

そのうえで、別に規定するもののほか、注射剤は次の試験に適合するよう求められます(項目の番号は製剤総則の記載順です)。

  • エンドトキシン試験法〈4.01〉。ただし、皮内、皮下および筋肉内投与のみに用いるものを除きます。エンドトキシン試験法の適用が困難な場合は、発熱性物質試験法〈4.04〉を適用できるとされています
  • 無菌試験法〈4.06〉
  • 注射剤用ガラス容器試験法〈7.01〉(容器の規定)。別に規定する場合は、着色容器や、プラスチック製医薬品容器試験法〈7.02〉に適合するプラスチック製水性注射剤容器も使用できます
  • 輸液用ゴム栓試験法〈7.03〉(100 mL以上の注射剤用ガラス容器に用いるゴム栓)
  • 注射剤の不溶性異物検査法〈6.06〉
  • 注射剤の不溶性微粒子試験法〈6.07〉
  • 注射剤の採取容量試験法〈6.05〉
  • 製剤均一性試験法〈6.02〉(用時溶解または用時懸濁して用いるもの)

このほか、水性溶剤には注射用水を用いること、血液や体液と等張にするための添加剤やpH調節剤を加えられること、分割投与するものには微生物の発育を阻止するに足りる量の保存剤を加えられることなどが定められています。

主な一般試験法の要点

不溶性異物検査法〈6.06〉

注射剤中の不溶性異物の有無を調べる検査法です。第1法は、溶液、懸濁液または乳濁液である注射剤と、用時溶解・用時懸濁して用いる注射剤の溶解液などに適用されます。容器の外部を清浄にし、白色光源の直下、2000〜3750 lxの明るさの位置で、肉眼で白黒それぞれの背景において約5秒ずつ観察し、たやすく検出される不溶性異物を認めてはならないとされています。プラスチック製水性注射剤容器を用いた注射剤では、上部と下部に白色光源を用いて8000〜10000 lxの明るさで観察します。

第2法は用時溶解または用時懸濁して用いる注射剤に適用され、溶解液などを用いて溶解または懸濁したときに、明らかに認められる不溶性異物を含んではならないとされています。

不溶性微粒子試験法〈6.07〉

注射剤中の意図しない不溶性微粒子、つまり気泡ではない容易に動く不溶性の物質について、大きさと数を調べる試験法です。第1法の光遮蔽粒子計数法を優先し、透明性が低い、または粘性の高い製剤(懸濁性注射剤、乳濁性注射剤、リポソーム注射剤など)で第1法による試験ができない場合は、第2法の顕微鏡粒子計数法で試験します。

第1法の判定基準は、表示量が100 mL以上の注射剤では1 mL当たり10 μm以上のものが25個以下、25 μm以上のものが3個以下、100 mL未満の注射剤では1容器当たり10 μm以上のものが6000個以下、25 μm以上のものが600個以下です。第1法の値を超えたときは第2法で試験します。装置については、校正、試料容量精度、試料流量および計数精度の検証を、少なくとも1年に1回以上行うことが求められています。

エンドトキシン試験法〈4.01〉

カブトガニの血球抽出成分から調製したライセート試薬を用いて、グラム陰性菌由来のエンドトキシンを検出または定量する方法です。ゲル化法、比濁法、比色法の三つの手法があります。

無菌試験法〈4.06〉

無菌であることが求められている原薬または製剤に適用される試験法です。本文には、試験に適合する結果が得られても、それは試験条件下で調べた検体中に汚染微生物が検出されなかったことを示すにすぎない、と明記されています。無菌試験の結果だけで製品の無菌性が保証されるわけではないという考え方は、無菌製剤の製造管理を扱う記事(GMP適合性調査とPIC/S GMP Annex 1)でも出てきます。

注射剤用ガラス容器試験法〈7.01〉と採取容量試験法〈6.05〉

注射剤用ガラス容器は、内容医薬品と物理的または化学的に作用して性状や品質に影響を与えず、完全に融封できるか、他の適当な方法で微生物の侵入を防げるものと定められています。容器は無色または淡褐色透明で、不溶性異物検査法の試験に支障をきたす気泡があってはならず、アルカリ溶出試験などの規格に適合する必要があります。

採取容量試験法は、表示量よりやや過剰に採取できる量が容器に充塡されていることを確認する試験法で、個々の製剤の採取容量は表示量以上であることが基準です。

日米欧の薬局方の調和とICH Q4B

日本薬局方の一般試験法の多くは、日本、欧州、米国などの薬局方の間で調和された試験法です。PMDAの公開資料によると、薬局方調和国際会議(PDG)は、欧州薬局方、インド薬局方、日本薬局方、米国薬局方の試験法と医薬品各条について調和活動を行う会議で、2023年10月に「日米欧三薬局方検討会議」から名称が変更されました。第十九改正日本薬局方の6.05、6.07、4.01、4.06の各試験法の冒頭にも、三薬局方での調和合意に基づく試験法であることが記載されています。

ICH Q4Bは、薬局方の調和された試験法をICH三極(日本、米国、EU)で相互に使用できるかを評価し、勧告するためのガイドラインです(2007年11月1日にStep 4)。評価の結果は付属書として公開されており、注射剤に関係する次の付属書では、日米欧の試験法が条件付きで互換的に使用できると勧告されています。

  • 付属書2(R1)「注射剤の採取容量」:Ph. Eur. 2.9.17、JP 6.05、USP〈1〉の「Volume in Containers」の項。判定基準は三薬局方で同じ
  • 付属書3(R1)「不溶性微粒子」:Ph. Eur. 2.9.19、JP 6.07、USP〈788〉。装置の校正とシステム適合性はそれぞれの地域のGMP要件に従うことが条件です。判定基準は、表示量100 mLの製品を除き互換的で、100 mLの表示量ではJPの基準がほかの二つより厳しいため、三極で互換的ではありません
  • 付属書8(R1)「無菌試験」:Ph. Eur. 2.6.1、JP 4.06、USP〈71〉。希釈液・洗浄液に抗菌性・抗真菌性がないこと、表示量100 mLの液状注射剤で500容器を超えるバッチの試験容器数が20または全容器数の2%のいずれか少ない方であることが条件。判定基準は三薬局方で調和されています
  • 付属書14「エンドトキシン試験」:Ph. Eur. 2.6.14、JP 4.01、USP〈85〉。三つの手法のいずれも使用でき、疑義や紛争の場合はゲル化限度試験を最終判断に用いることなどが条件です。評価した本文には判定基準が含まれておらず、エンドトキシン限度値は、個別の各条に規定がない限り、申請書に記載する必要があります

互換的という勧告は、各極の当局が地域の手続に従って実施することを前提にしています。日本での実施の詳細は、厚生労働省の通知で示されると各付属書に記載されています。

三薬局方の試験法の対応

注射剤の主な試験について、日本薬局方、欧州薬局方、米国薬局方の対応する一般試験法の番号を整理します。

注射剤の主な試験法の対応(JP、EP、USP)
試験の対象JP(第十九改正)EPUSPICH Q4Bの状況
エンドトキシン4.01 エンドトキシン試験法2.6.14〈85〉付属書14(条件付きで互換)
無菌4.06 無菌試験法2.6.1〈71〉付属書8(R1)(条件付きで互換)
不溶性微粒子6.07 注射剤の不溶性微粒子試験法2.9.19〈788〉付属書3(R1)(100 mL表示量の判定基準は互換でない)
採取容量6.05 注射剤の採取容量試験法2.9.17〈1〉の「Volume in Containers」付属書2(R1)(互換)
不溶性異物(目視)6.06 注射剤の不溶性異物検査法2.9.20〈790〉本記事では取り上げません
ガラス容器7.01 注射剤用ガラス容器試験法3.2.1〈660〉本記事では取り上げません

番号が対応していることは、本文の内容が同一であることを意味しません。上記のとおり、条件付きで互換とされているもの、判定基準が一部異なるものがあり、目視検査とガラス容器については各薬局方がそれぞれ独自に規定しています。

承認申請資料での規格の扱い

承認申請資料のうち、品質に関する部分は、ICH M4(コモン・テクニカル・ドキュメント)のモジュール3、日本のCTD第3部にまとめます。製剤の規格に関する記載は、ICH M4Qの構成では、主に次の項目があります。

  • 3.2.P.5.1 規格及び試験方法
  • 3.2.P.5.2 試験方法(分析法)
  • 3.2.P.5.3 試験方法のバリデーション
  • 3.2.P.5.4 ロット分析
  • 3.2.P.5.6 規格及び試験方法の設定の根拠

このほか、3.2.P.2.4(容器施栓系の適切性)、3.2.P.2.5(微生物学的特性)、3.2.P.7(容器施栓系)、3.2.P.8(安定性)も、注射剤では規格と密接に関わります。

ICH Q6Aに見る注射剤の規格設定

新規の原薬・製剤の規格設定の考え方を示すICH Q6Aは、注射剤について、適用が考えられる試験として次の項目を挙げています。

  • 製剤均一性(質量の偏差または含量均一性。用時溶解する粉末では質量の均一性が通常は許容されます)
  • pH
  • 無菌:すべての非経口製剤に、無菌性を評価する試験法と判定基準が必要です。開発・バリデーションのデータで正当化できる場合、最終滅菌した製剤についてはパラメトリックリリースを提案できます
  • エンドトキシン/発熱性物質:ライセート試験などの試験法と判定基準を規格に含めます。正当化できる場合は、発熱性物質試験を代替として提案できます
  • 微粒子:目視で確認できる微粒子または溶液の透明度、および必要に応じて不溶性微粒子の判定基準
  • 非水性注射剤や用時溶解する製剤での水分含量、保存剤を要する製剤での保存剤含量

Q6Aは新規の化学合成品を対象としたガイドラインであり、個別の申請で必要となる規格は、品目の特性や承認の区分によって変わります。日本薬局方に収載された試験法を採用する場合は、申請書の規格にその試験法の番号と版を明示しておくと、審査での確認が容易になります。

海外の製造所が整理しておく項目

  • 自社の規格で使用している試験法が、どの薬局方(またはその他の方法)に基づくか
  • その試験法が日本薬局方の対応する一般試験法と同等であるか、条件付きの互換にとどまるか、独自の規定か
  • 100 mL表示量の製品で不溶性微粒子の判定基準を設定する場合、日本薬局方の基準を満たしているか
  • エンドトキシン限度値の設定根拠(各条に規定がない場合は申請書に記載する)
  • 容器・施栓系が日本薬局方の容器に関する試験法に適合しているか、または別の方法で同等性を示せるか
  • 試験法バリデーションの記録とロット分析のデータ

製造所の側では、規格と試験法の対応表を作っておくと、日本の製造販売業者や審査当局とのやり取りが順調になります。製造所の許可・認定と承認の関係は、外国製造業者認定と外国特例承認の記事で整理しています。

よくあるご質問

欧州薬局方や米国薬局方の試験法で、日本の承認申請の規格を設定できますか。

ICH Q4Bの付属書は、エンドトキシン、無菌、不溶性微粒子、採取容量について、JP、EP、USPの試験法を条件付きで互換的に使用できると勧告しています。ただし、条件や例外(たとえば100 mL表示量の不溶性微粒子の判定基準)があり、日本での扱いは厚生労働省の通知に従います。実際の申請では、使用する試験法と根拠を申請書に明記します。

エンドトキシン試験は、すべての注射剤に必要ですか。

第十九改正日本薬局方の製剤総則では、注射剤は、別に規定するもののほか、エンドトキシン試験法に適合することとされています。ただし、皮内、皮下および筋肉内投与のみに用いるものは除かれ、エンドトキシン試験法の適用が困難な場合は発熱性物質試験法を適用できます。

不溶性異物検査法と不溶性微粒子試験法は何が違いますか。

不溶性異物検査法〈6.06〉は、一定の明るさの下で肉眼により異物の有無を確認する検査です。不溶性微粒子試験法〈6.07〉は、光遮蔽粒子計数法や顕微鏡粒子計数法を用いて、10 μm以上と25 μm以上の微粒子の数を数値で判定する試験です。製剤総則は、注射剤に両方への適合を求めています。

薬局方の版が変わったときはどうすればよいですか。

日本薬局方は改正と追補で更新されます。第十九改正日本薬局方は令和8年4月10日厚生労働省告示第193号で公示されており、その後の正誤表も公開されています。申請や変更の際は、その時点で有効な版の本文と、厚生労働省・PMDAの案内を確認してください。

注射剤の品質規格は、薬局方の試験法の番号を並べるだけでは整理できません。調和されている部分と、各極で独自に規定している部分を切り分け、申請書の規格にその根拠を残しておくことが、承認申請での説明を簡潔にします。

参考資料

  1. 厚生労働省、日本薬局方(第十九改正日本薬局方、令和8年4月10日厚生労働省告示第193号)。製剤総則 3.1 注射剤、一般試験法 4.01、4.06、6.05、6.06、6.07、7.01。リンク
  2. PMDA、薬局方の国際調和(薬局方調和国際会議(PDG)、ICH Q4Bとの関連)。リンク
  3. ICH, Q4B: Evaluation and Recommendation of Pharmacopoeial Texts for Use in the ICH Regions (Step 4, 1 November 2007). リンク
  4. ICH, Q4B Annex 3(R1): Test for Particulate Contamination: Sub-visible Particles General Chapter (27 September 2010). リンク
  5. ICH, Q4B Annex 8(R1): Sterility Test General Chapter. リンク
  6. ICH, Q4B Annex 14: Bacterial Endotoxins Test General Chapter. リンク
  7. ICH, Q4B Annex 2(R1): Test for Extractable Volume of Parenteral Preparations General Chapter. リンク
  8. ICH, Q6A: Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for New Drug Substances and New Drug Products: Chemical Substances (Step 4, 6 October 1999), 3.3.2.3 Parenteral Drug Products. リンク
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  10. USP-NF, 〈790〉 Visible Particulates in Injections。リンク
  11. USP-NF, 〈660〉 Containers—Glass。リンク
  12. EDQM, Ph. Eur. general chapter 3.2.1 Glass containers for pharmaceutical use (revision published in Pharmeuropa 37.3). リンク